【イベント】鴉の涙①

カラスの「助けて欲しい」と言う願いを聞き入れたあなた。最初に何処を探索する？

静寂の塔の中は静まり返っており、微かな耳鳴りだけが響いている。そんな中、塔の上からカラスの鳴き声が聞こえた。目の前には階段が続いている。

名無しの森からは、不気味な霧が漏れ出ている。奥は真っ白で見通しが悪く、1歩を踏み入れるのも躊躇うほどだ。
微かに、人の声のようなものが聞こえた気がする。

カラスの鳴き声に導かれるまま階段を上ると、大量の本が積まれた部屋に辿り着いた。石の壁に囲まれた部屋はほとんどが本に埋め尽くされている。そこに書かれている文字は全く見覚えのないものから、何となく読めそうなもの、簡単に読むことのできるものまで様々な種類が揃っている。学校で使っている教科書や、図書館に並んでいた本もあるようだ。一体、誰がこんな大量の本を詰め込んだのだろうか。

本の隙間から、はらりと写真のようなものが床に落ちた。

塔の1階部分には、ところどころにカラスの羽が落ちているようだ。普段、何羽のカラスがここに来ているのだろうか。
塔は綺麗に掃除されているようで、蜘蛛の巣や無造作に生えた蔦などは見当たらない。
……それにしても、静かだ。まるで時間すらも存在しないかのように、塔の中の空気はしんとしていた。

「静寂の塔が気になるのかな」
背後から、フルヤ先生の声がした。

声を頼りに森の中へ進むと、霧の奥に人影が見えた。1人、2人……3人、いや。人数ははっきりとはわからない。
声は複数人で楽しそうに会話しているようだった。何を言っているのかは聞き取れないが、長いスカートを揺らしながら歩いている人影が見える。どこかで見たような、メイド姿だ。

『王様が困ってしまわないように、ワタシたちもガンバロー！』
『こら、あまりはしゃぐとまた転びますよ。』
『あっ、見つけた！あの黒いの、早く壊しに行こう！』
『走ると危ないと何度も……はぁ。目が離せない子ね……。』

森の中へ入る前に辺りをよく見て回っていると、木に何かが彫られているのを見つけた。くるくると線が引かれ、先には葉のような形。魔法の国の古代語のようだ。そばに生えている木にも、いくつか古代語が彫られている。かつて、魔法の国の人がここで会話をしていたのだろう。その木が今も綺麗に残っているとは……。

「名無しの森が気になるのかな」
背後から、フルヤ先生の声が聞こえた。

人影を追いかけて更に森の奥へと入ると、一瞬にして辺りの景色が変わった。
森には明るい光が差し込み、不気味な気配もしない。

「こっちこっち〜！」
先程の人影─メイド姿の1人が、ぶんぶんと大きく手を振っている。
紫髪のメイドが立っている場所を見ると、黒い塊が蔦状になって木に絡まっていた。
「これ、ぱぱっと壊しちゃおう」

振り返ってみると、穏やかに微笑むフルヤ先生がいた。
「もし良ければ、何が気になるのか教えてくれないかな」

声の方には振り返らず、聞こえなかったフリをする。
目の前には上へ続く階段が、後ろには塔の出口がある。
階段の上から、再び「カァ」と鳴き声が聞こえた。

振り返ってみると、穏やかに微笑むフルヤ先生がいた。
「もし良ければ、何が気になるのか教えてくれないかな」

声の方には振り返らず、聞こえなかったフリをする。

森の奥からは、再び人の声のようなものが聞こえた。