カラスの願いを聞き入れて暫く経った。森の霧は、かなり薄くなった。激しかった地鳴りも今やほとんど収まっている。今日はどこへ向かう?
静寂の塔の中は静まり返っており、微かな耳鳴りだけが響いている。至る所でカラスたちが羽を休めており、時折羽の擦れる音が聞こえる。塔の上からカラスの鳴き声が聞こえた。目の前には階段が続いている。鳴いているカラスは、この階段の先にいるようだ。
名無しの森は霧が薄まり、空から差し込む光が木々を抜け、地面をちらちらと照らしている程だ。見通しはかなり良くなり、以前のような不気味さはどこにもない。これなら、森へ入っても問題なさそうだ。
今日は森や塔には行かず、学園内に留まることにした。廊下を歩いていると、古代語資料室が目に入った。普段なら締め切られているはずのその扉は、何故か開け放たれている。
カラスの声を頼りに階段を上ると、少し広々とした部屋に辿り着いた。いくつかの小窓から外の光が差し込み、照明器具が無くとも部屋は明るい。大きなテーブルの周りには椅子が並べられ、壁や床には所々に古代語が刻まれている。部屋には至る所に手紙や紙の束が積み重ねられ、いくつかの紙や本は空中にふわふわと浮いていた。ぺら、と紙の擦れる音が聞こえた。そちらへ目をやると──カラスと共に椅子に腰かけ、何やら本を読んでいるフルヤ先生がいた。「部屋に入って構わないよ」
「いらっしゃい。ここは僕たちの憩いの場だ。君もゆっくりしていくと良い」カラスを撫でながら、落ち着いた声で言うフルヤ先生。「何か気になる物があれば、調べてみても良いよ。もちろん、僕に聞いても良い」そう言うと、再び手元の本に視線を移した。
部屋を見て回り、ふわふわと浮いている紙や本に近付く。大陸の歴史やアルスルフトについて書かれているものもあれば、魔法や神聖力に関する記録、日記のようなものもある。手元に、2つの紙の束が降りてきた。『魔獣アデル』『神聖竜ウズリ』手元の紙には、そう記されている。
「おや、どうしたんだい。僕に聞きたいことがあるのかな」隣のカラスは撫でられながら、気持ちよさそうにしている。普段手袋で隠されているフルヤ先生の手には、今日は手袋がない。素手と思われるその表面は、所々青くなっている。
森へ入ると、今までより視界が良く、少し先まではっきりと見えた。どこからか、時計の音が聞こえてくる。音の出処は近いような、遠いような。何となく心地の良い音だった。縛りや迷子のカラスはないかと歩みを進めると、視界の端で何かが光った。
その場に留まり、森の付近を見て回ろうと少し歩いてみる。得体の知れない空気を醸し出していた森は、今では「普通の森」に見える。「あれぇ、学生君?こんなトコで何して……。あ〜、もしかして例のカラスの!」背後から誰かの声がした。振り向いて見ると、学園のウェポンショップの店主、エル・ヴィオーニの姿があった。
その場に留まり、静寂の塔をよく観察してみる。カラスたちが寛いでおり、床には羽がちらほらと落ちている。「……おっと。人がいるな。……何だ、探索ってやつか?」塔に誰か入って来たようだ。声のした方を見てみると、学園のツールショップの店主、アール・ヴィオーニの姿があった。階段の上からは、再びカラスの鳴き声が聞こえた
何かが光った方へ向かってみると、少し開けた場所に着いた。視界の先には、大きな宝石の塊のようなものが。宝石の周りには、いくつかの縛りがあった。宝石は空から差し込む光を反射し、辺りがきらきらと照らされている。その光の中に、何かが見えた。
光の中で人影のようなものが動いている。微かに声が聞こえてきた。『君はすごいよ、イチ。何でも出来る。国をひとつにまとめてしまうなんて』『俺はお前さんの手伝いをしたまでだ。親友が、家族が困っていたら、助けるのは当たり前だろう』『イチのおかげで助かったよ。フラグメント・コアである僕でさえも出来なかったことを、君は成し遂げたんだ。本当にありがとう』人影は、和服姿と、黒いローブを着た姿の2つだった。他の光の中にも、人影が見える。
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